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特別法上の損害賠償責任とは
■特別法上の損害賠償請求
上記のように、損害賠償は民法に規定されている不法行為や債務不履行を根拠にして請求する場合が多いですが、損害賠償に関する規定は、なにも民法だけに記載されているというわけではありません。民法は、人や地域、事柄について、特に制限なく一般に適用される法律(=一般法)であるとされ、もし、ある特定の人・地域・事柄・行為について適用される法律(=特別法)が存在するならば、その特別法は民法に優先して適用されることになります(特別法優先の原則)。
そのため、以下でご紹介する法律のうち、特定の事柄に関する損害について損害賠償請求を認めている場合は、民法ではなくその特別法が適用されます。
■国家賠償法
旧帝国憲法下では、公権力の行使により国民が損害を被った場合でも、国家が責任を問われることはありませんでした(国家無答責の原則)。なぜなら、その当時、伝統的に「公務員の行為自体が違法であって、国民に対して損害賠償が認められるにしても、それは本来違法行為を行った当の公務員個人が責任を負うことが筋であって(個人責任)、国家が公務員に代わって賠償責任を負ういわれはない」、と考えられていたからです。しかし、この国家無答責の原則を貫き通すと違法行為を行った公務員が過大な賠償責任を負うことになり、また被害者の救済という観点から見ても問題があると考えられるようになりました。そのため、日本は戦後において、日本国憲法17条で公務員の違法行為に対して損害賠償を請求できる旨が定められ、国家賠償法により、国や公共団体の損害賠償が明確化されました。
日本国憲法17条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
国家賠償制度は大きく、国家賠償法1条の場合と2条の場合に分かれます。
・国家賠償法1条
公務員の違法行為による損害の場合には、国家賠償法1条が適用されます。すなわち、国または公共団体の、公権力行使にあたる公務員が、その職務を行う際に、故意または過失によって違法に他人に損害を加えた時は、国または公共団体が損害賠償責任を負います。
国家賠償法1条
①国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
②前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
「公権力の行使」とは、私経済的なものを除くすべての国家・公共団体の作用を言います。同法1条1項は、自己が使用する他人の不法行為について責任を負う使用者責任(民法715条 詳しくは「不法行為とは」を参照)の特別規定としての性格を有し、1条1項の適用がないし経済的な作用については、一般法たる民法715条が適用されます。公務員の「職務」ということも使用者責任の「事業」と同様に、外形的な職務執行と認められれば足ります。しかし、使用者責任と異なり、国や公共団体には免責が認められず、また求償できるのは不法行為をした公務員に故意・重過失がある場合に限られます。
また「公務員」には、国家公務員や地方公務員だけでなく公団の職員や、戸籍事務を扱っている船長や機長のような公権力の行使を委任された民間人も含みます。この中に、立法権や司法権に属す公務員も含まれ、判例でも国会の立法行為や裁判所の判決に1条の適用が認められていますが、国会議員や裁判官の場合には国家賠償がそのまま成立するのではなく、違法性の判断が限定されるので注意が必要です。
・国家賠償法2条
国家賠償法2条は、道路や河川をはじめとする「公の営造物」の設置・管理上の瑕疵により損害を被った場合、例えば、公園の遊具の不具合で子供がけがをした場合やトンネルが崩落して運転者が死亡したような場合に、設置管理者にあたる国・公共団体が被害者に賠償すべきことを定めています。
国家賠償法2条
①道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
②前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
この規定は、土地の工作物責任を定める民法717条(詳しくは「不法行為とは」を参照)の特別規定としての性格を有します。「瑕疵」は、民法717条の「設置または保存の瑕疵」と同様に、通常有すべき安全性を欠いていることを言います。この瑕疵の有無については無過失責任がとられており、国や公共団体に過失があったかどうかということは問われません。「公の営造物」とは、公の目的に供される有体物・物的設備を言い、これは建物や道路、橋梁、堤防、空港といった不動産だけでなく、パトカーや警察犬、ピストル、刑務所にある脱水機などの動産も含まれます。また、人工のものの他にも河川や海浜、湖沼などの「自然公物」も対象に含まれますが、公共の用に供するものに限られるので注意が必要です。なお、同法1条と同様、国や公共団体には免責が認められていません。
■自動車損害賠償保障法
自動車損害賠償保障法とは、交通事故の被害者救済を主な目的として制定された法律で、交通事故で死傷した被害者から加害者に対する責任追及を確立し、被害者の保護を図るため、故意・過失の証明責任を加害者側に負わせる民事損害賠償責任の規定(同法3条)を記したものです。
自動車損害賠償保障法3条
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
「自己のために自動車を運行の用に供する者」(=運行供用者)にあたるかどうかは、自動車の運行を支配しているか、運行による利益を享受しているかにより定まるとされています。運行供用者であっても、自己及び運転者が自奏者の運行に関し注意を怠らなかったこと等を証明した時は免責されますが、その立証は極めて困難です。
■製造物責任法(PL法)
製造物責任法とは、消費者保護の観点から立法された法律で、欠陥ある製造物を流通に置いた製造業者等に無過失責任を負わせる製造物責任を定めています。
製造物とは、製造又は加工された動産を言い、製造物を業として製造、加工、輸入した業者(製造業者)や、製造物に製造業者と認められる氏名を表示した者等は、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命身体、財産を侵害した時は損害賠償責任を負います(同法3条)。
製造物責任法3条
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。
製造物責任法2条3項2号・3号
③この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
三 前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者
「欠陥」とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いていることを言います。
一般消費者と製造・加工業者や小売店を除く販売業者との間には契約関係がないのが通常であり、この場合、製造物の欠陥により損害を被った一般消費者は、不法行為に基づき損害賠償を求めるほかありません。そのためには製造業者等の故意・過失(通常問題となるのは過失のほうでしょう)、さらには、過失等により損害が発生したという因果関係を立証しなければならず、これは著しく困難です。そこで、立証の対象を客観的な商品正常としての「欠陥」並びに「欠陥」と損害との因果関係と一般消費者(被害者)の立証負担を軽減し、その保護を図ったのです。
なお、製造業者等からの製造物責任に対する抗弁も規定されていますが、極めて例外的な場合に限られます。
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