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家族信託が生まれた背景

■信託法の歴史
信託法は大正11年に制定され、平成18年の改正まで実質的な改正がありませんでした。信託制度は第二次世界大戦以後、主に信託銀行などによって商事信託を中心に発展を遂げ、また近年では社会の高齢化を背景に財産管理や遺産承継を目的とする家族信託へのニーズが高まってきました。このような背景を受け、政府も信託法の改正を検討し始め、平成18年に信託法改正要綱に基づく信託法案及び整備法案が成立しました。

■成年後見の問題
日本では高齢化が進み、認知症患者の方も増えつつあります。認知症等によって行為能力喪失状態になった場合、考えられるのは「成年後見」という制度の利用です。これは、認知症になった人の子や、弁護士、司法書士等が後見人として財産の管理や、契約の締結を代わって行うものです。しかし、成年後見では後見人の行動はすべて家庭裁判所の監督のもとにあります。少しでも難しい判断は家庭裁判所にゆだねなくてはならないのです。また、新たな借金や不動産の購入等は原則できず、財産は実質凍結せざるを得なくなっていました。

■相続の問題
財産を持っていた人物が死亡した場合「相続」が行われます。この相続は遺言があれば原則遺言通り、なければ法定相続という構成になっています。
遺言は単独行為と呼ばれるように、遺言者が1人でできる手続きであるため、いつでも後から書き換えることができます。
また遺言があったとしても遺留分減殺請求というものがあります。これは兄弟姉妹を除く法定相続人には遺言があったとしても、最低限の遺産を相続できると定めたものです。この遺留分減殺請求が行われた場合、権利の全体が共有物となってしまうのです。そのため、共有者の誰か一人でも合意が得られない場合や、認知症等になっていた場合実質的に財産が凍結状態になってしまうという問題がありました。
またそのほかにも、従来の相続では二次相続が無効であったため、自分で得た財産であるにもかかわらず、誰に財産を遺したいという意思が完全に達成されない状況が生まれてしまっていました。

■柔軟な家族信託
高齢化による認知症の増加や複雑化する財産関係によって、従来の後見制度や後見制度の穴を埋めるべく、これらに柔軟に対応できる家族信託のニーズが高まってきています。
家族信託では家族信託契約を締結することによって財産ごとの「権利」と「名義」を分離し受託者に名義が移転します。それにより、財産の円滑な管理を行うことができるばかりでなく、当初受益者が死亡してしまった場合の二次受益者を定めておくことによって承継対策として用いることができるのです。また、自分が亡くなった後の財産を子に、そして次は孫に、といった受益者連続型信託など管理・承継に幅広さと柔軟性を持たせることが可能になりました。

・成年後見との相違
・・・成年後見制度ではその行為が被後見人のメリットになるか否かが行為の是非を問う基準となります。しかし、家族信託では委託者の行為能力があるうちに自らの財産管理の希望を託しておくことで、本人の意思に沿った柔軟な財産管理が可能なのです。
例えば、子に将来不動産の売却を任せた場合を想定します。成年後見では不動産のもともとの所有者が認知症等になった場合、後見制度は財産の現状維持を目的としているため後見人が司法書士や弁護士であればなかなか売却を行うことはありません。
また、その不動産が管理を任せた人物が住んでいる不動産であった場合、家庭裁判所の許可が必要になってきます。
しかし、家族信託契約を結んでいれば、委託者の意思に従って受託者である子が自らの判断で柔軟に不動産の売却を行うことができるのです。

・遺言との相違
・・・家族信託契約は相続ではなく契約となります。委託者と受託者の契約であるため、原則一人で勝手に契約を変更することはできず、仮に委託者が家族信託契約を締結した後に別の内容で遺言を書いたとしても、名義がすでに受託者のもとへ移転しているため、遺言が有効にならないため非常に安定しているといえます。
また遺留分減殺請求が行われた場合、通常権利の全体が共有物になるのに対し、家族信託契約では裁判所が遺留分減殺請求を認めたとしても受益権の一部が遺留分の権利者に移るだけであり、共有化を回避できます。

また、そのほかには財産を持っている人物が、自分が亡くなった後は子に、子が亡くなった後は孫に承継させたいと考えたとします。このことを二次相続といいますが、遺言で二次相続について承継先を指定したとしても無効となります。子へ承継した財産は子の固有の財産となるからです。
家族信託契約の場合は条件付き贈与のため最終受益者へ受益権が移るまでに複数の受益者を間に挟むことが可能になります。そのためそうした親から子へ、子から孫へといった財産の承継が可能になるのです。

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