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遺言代用信託
■遺言代用信託の概要
遺言代用信託は信託の仕組みを利用して遺言と同じような効力を発生させるものです。この仕組みは、最初の信託契約の段階では委託者自身を当初受益者としておき、契約書の中で当初受益者が死亡した後の二次受益者を指定しておくといったものです。
この仕組みは平成18年の信託法改正によって認められ、信託法の90条によって明文化されています。
信託法90条
次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託
2 前項第二号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
■遺言代用信託のメリット
遺言代用信託を用いた場合、手続きが非常に簡潔になるというメリットがあります。なぜなら、この仕組みは契約であって相続手続きではないため、被相続人の戸籍集めや遺産分割といった手続きを必要としないからです。また、名義が受託者のまま変わらないため相続による名義の変更などの手間が省け、単に受益者の変更だけで済ませることができるのです。
また、法的安定性が遺言に比べてあることもメリットの一つです。遺言というのは単独行為と呼ばれるように遺言者1人が行うことのできるものです。そのため、一度遺言を書いてもらったとしても、その後勝手に内容が変えられてしまったという事態も十分にあり得るのです。しかし、遺言代用信託では、委託者と受託者による「契約」行為であるため、原則として1人で勝手に内容を変更することはできません。また、仮に信託契約を結んだ後に別内容で遺言が書かれたとしても、すでに名義の変更が行われているため遺言の効力が発生せず問題が起こらずに済むのです。
その他にも、権利の共有化を避けることが可能です。例えば遺言によって不動産を相続した場合、その不動産に対して遺留分減殺請求が行われれば、その権利全体が共有物になってしまい、売却などの行為を行うことが難しくなってしまいます。しかし、家族信託契約では遺留分減殺請求が行われ、仮にそれが家庭裁判所で認められたとしても、受益権の一部が遺留分権者にわたるだけで済みます。これによって共有化を回避することができ、1つごとに権利が共有される株などでは特に大きな効果を発生させることになります。
そして最後に、遺言代用信託では遺言では行うことのできない二次相続を行うことができます。これは自分の持つ財産を託す人物を次の次まで指定するといったものです。遺言の場合、一度財産が相続されてしまえば、相続された財産は相続された人固有のものとなり、その次に相続する人を決める場合、新たに遺言が必要となるのです。しかし、家族信託契約は委託者から最終受益者までの条件付き贈与という構成になっています。そのため、最終受益者までの間に何人かの受益者を挟むといったことが可能なのです。(信託法91条)
なお、この受益者連続型信託は契約時から30年経過後の受益者の死亡によって終了するということに注意が必要です。
信託法91条
受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。
■遺言信託と遺言代用信託の違い
遺言信託と遺言代用信託、非常に名前の似た両者ですがこの2つは別物です。それぞれの違いについてご説明していきます。
遺言信託
・・・遺言信託は遺言書の中で信託の仕組みを設定するものです。あくまでこれは遺言であり、遺言者本人が亡くなるまで効力は発生せず、また何度でもあとから内容を書き換えることができます。遺言者が亡くなった場合に効力が発生し、そこから信託が始まります。通常の遺言のように財産を残すだけでなく、その財産管理の仕組みまで含めて残すのが遺言信託なのです。
遺言代用信託
・・・遺言代用信託は遺言ではなく、遺言と同様の効力を持った信託契約です。財産を残したいと考える人の生前から効力を発生させて財産管理を行い、その本人が亡くなった後は次の受益者をしておき、信託によって財産管理を継続していくといったものです。遺言代用信託では、契約のため後から内容の書き換えを一人では行うことができず、法的安定性がある仕組みとなっています。
また遺言にできて遺言代用信託ではできないことも存在します。例えば、未成年後見人を指定するといったことや、子の認知などの身分行為は信託で行うことができません。
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